無線従事者試験は受験資格が設定されていないという性質上、いろいろな人が受験するため、無線工学の科目で出てくる数学に苦労した人も多いのではないだろうか。
前回は微分、積分、微分方程式について扱った。
今回はベクトル解析を扱う。ベクトル解析については無線従事者の勉強というよりは電磁気学の道具立てという意味合いが強く知っていると理解が早いくらいのものである。
マクスウェル方程式はベクトルで記述されており、一番面白いところを深く理解するためにはどうしても必要な知識ではある。
この記事を読むことによって次のことが分かる。
ベクトルって何?
まず、ベクトルって何?っていう人のためにざっくり説明する。
ベクトルは大きさと向きを持った量のことで、力や速度などがこれにあたる。\(\vec{A}, \boldsymbol{A}\)などと表現されるのが一般的である。
ベクトルの表現として幾何学的には矢印で表すのが一般的だが、平行移動しても不変という性質から空間上で原点からある点までの矢印と同一視して座標と同じように表現されることもある。$$\vec{A}=\left( \begin{array}{c} A_x \\ A_y \\ A_z \end{array}\right) $$
この表現で書けば足し算や引き算は成分ごとの足し算引き算で計算できる。縦ベクトルの形で書いているが\(\vec{A}=(A_x,A_y,A_z)\)のように書くこともある。ちゃんとやろうとすると意味合いは変わってくるが、ここでは気にしないことにする。
ベクトルに対して向きを持たない量をスカラーと呼ぶ。
無線従事者試験の参考書ではこれらの意味が混同されて使われがちである。今考えているのがベクトルなのかスカラーなのかは意識するようにしたほうが良い。
場
広がりを持った空間内である点を一つ決めるとそこで値やベクトルが一つ決まるような関数のことをそれぞれスカラー場(\(\phi(x,y,z)\)など)、ベクトル場(\(\vec{A}(x,y,z)\)など)と呼ぶ。
スカラー場の例としては電位等がある
ベクトル場の例としては電界や磁界などがある。
内積と外積
ベクトル\(\vec{A}=(A_x,A_y,A_z),\vec{B}=(B_x,B_y,B_z)\)内積の定義は以下のようになる。
$$\vec{A}\cdot \vec{B}=A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z$$
(\vec{A},\vec{B}\)のなす角を\(\theta\)とすると$$\vec{A}\cdot\vec{B}=|\vec{A}||\vec{B}|\cos \theta$$と計算することもできる。
上記でいうと\(\vec{A}\)に\(\vec{B}\)を射影して、その長さの積になっている。役割を変えても同じことが言える。
このことから内積は向きを揃えた長さの掛け算とみなすことができる。
同様に外積も見ていこう。
$$\vec{A}\times\vec{B}=\left( \begin{array} aA_yB_z-A_zB_y \\ A_zB_x-A_xB_z \\ A_xB_y-A_yB_x\end{array}\right)$$
外積\(\vec{A}\times\vec{B}\)はベクトル\(\vec{A},\vec{B}\)が作る平行四辺形の面積を大きさとして持ち、向きが\(\vec{A}\)から\(\vec{B}\)の方向に右ねじを回して右ねじが進む方向となる。(ローレンツ力などで見てきた。)
ベクトル場に対する演算
ナブラ演算子という偏微分のベクトルのような演算子がある。
$$\vec{\nabla }=\left( \begin{array}{c} \frac{\partial}{\partial x} \\ \frac{\partial}{\partial y} \\ \frac{\partial}{\partial z} \end{array}\right) $$
この演算子を使って、勾配、発散、回転という演算を定義することができる。
勾配
勾配はスカラー場に対してナブラ演算子をかけて、ベクトル場にしたものである。
ある点でのスカラー関数の傾きをあらわす。
発散
発散はナブラ演算子とベクトル場との内積で定義される。
$$\vec{\nabla}\cdot \vec{A}=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}$$
発散はある点での単位体積あたりの湧き出し量を表す。
回転
回転はナブラ演算子とベクトル場の外積で定義される。
$$\vec{\nabla}\times\vec{A}=\left( \begin{array} a\frac{\partial A_z}{\partial y}-\frac{\partial A_y}{\partial z} \\ \frac{\partial A_x}{\partial z}-\frac{\partial A_z}{\partial x} \\ \frac{\partial A_y}{\partial x}-\frac{\partial A_x}{\partial y}\end{array}\right)$$
回転はある点でのベクトル場の寄与によってその点での回転を表す。
ガウスの定理とストークスの定理
ガウスの定理については下記記事で説明している。

ストークスの定理
ストークスの定理は下記の式で表される。
$$\int_S(\vec{\nabla} \times \vec{A})\cdot \vec{n}dS=\oint _L \vec{A}\cdot d\vec{l}$$
簡単に証明しよう。
閉曲線Cで囲まれた閉曲面Sを考える。この\(S\)を細かく分割しある微小局線\(C_i\)で囲まれた微小曲面を\(S_i\)とする。\(S_i\)は十分小さいので平面上に載っていると考えて良い。この平面の法線方向にz軸を取る。
\(S_i\)を\(dx,dy\)の長方形とし、一つの頂点が点\(\vec{r}=(x,y)\)にあるとする。
ベクトル\(\vec{A}\)の\(C_i\)上の線積分を考える。
$$\begin{align}\oint _{C_i}\vec{A}(\vec{r})\cdot d\vec{l}&=A_x(x,y,z)dx+A_y(x+dx,y,z)dy \\&-A_x(x+dx,y+dy,z)dx-A_y(x,y+dy,x)dy \\&=\frac{\partial A_y(\vec{r})}{\partial x} dxdy-\frac{\partial A_x(\vec{r})}{\partial y}dxdy \\&=\left(\frac{\partial A_y(\vec{r})}{\partial x}-\frac{\partial A_x(\vec{r})}{\partial y}\right) dxdy \\&=\int_{S_i}(\vec{\nabla}\times\vec{A})\cdot \vec{n}dS\end{align}$$
微小曲面に区切ってストークスの定理が成り立つことがわかった。
すべての平面をつなぎ合わせれば証明したい形なる。微小曲面同士の接点ではベクトルの方向が逆になるので打ち消し合うから、最後に残るのは閉曲線Cでの線積分だけである。
以上からストークスの定理が成り立つ。
参考文献
次回予告
無線工学の基礎の電気物理の範囲を半分くらい見てきたが、このあとマクスウェル方程式を導出して、電気物理の残りを解説していきたい。マクスウェル方程式は無線工学Bの範囲で無線工学の基礎の範囲と若干ギャップが有る。
このあたりで全範囲を俯瞰して何を知るべきか見ておこうと思う。
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