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【資格】無線従事者のための物理学-電離層-

 

前回電波の伝搬の種類について解説しました。 今回は特に電離層での反射による伝搬について原理的なところを解説したいと思います。 無線工学Bの電波伝搬の内容を深堀りした内容です。 この記事を読むことで試験には直接出ませんが、なぜ電離層反射波が存在するのか、なぜHFのような低い周波数だけが電離層で反射するのかが分かります。

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電離層での反射の定性的な説明

電離層は太陽の影響を受けて上空の大気の分子が電離して電子と陽イオンに分かれている状態のことを言うのでした。 このような状態をプラズマといいます。 まずはプラズマでなぜ電波が反射するのか定性的に考えていきましょう。

電波は電界と磁界が相互作用しながら進む波なのでプラズマ中の荷電粒子は電波によって振動します。 プラズマ中の荷電粒子は電子と陽イオンがありますが、陽イオンに比べて電子の方が質量が小さいため、電磁波によって振動するのは主に電子です。 電子が振動するということはすなわち振動する電流が流れているということです。 電流が流れればアンペアの法則によって磁界が発生し、電波が再放射されることになります。

上記のようなプロセスで電波によって電子が振動することで反射波が発生します。

モデル化と計算

ここでは大気中の分子が電離しプラズマ化していている状態を電子と陽イオンが真空中に存在する状態と考えましょう。 電子同士や電子と陽イオンとの衝突はひとまず無視することにします。 $$ \vec{E}=\vec{E_0}\cos \omega t $$ の電波が入射したとします。

まず、電子の運動方程式を考えて電流を求めましょう。 電子の質量を\(m\)、電荷を\(e\)、単位体積あたりの電子数を\(N\)とします。 運動方程式は次のとおりです。 $$ m\frac{d\vec{v}}{dt}=e\vec{E}=e\vec{E_0}\cos \omega t $$ このことから電子の速度は $$ \vec{v}=\frac{e\vec{E_0}}{m\omega}\sin \omega t $$ となります。 電波がプラズマに入射したときの電流密度\(\vec{i_e}\)は次のように表せます。 $$ \vec{i_e}=Ne\vec{v}=\frac{Ne^2\vec{E_0}}{m\omega}\sin \omega t $$

一方、アンペアの法則の変位電流を考えましょう。 電束密度は\(\vec{D}=\epsilon_0\vec{E}\)とかけるので、変位電流は次のようになります。 $$ \frac{\partial \vec{D}}{\partial t}=-\epsilon_0\vec{E_0}\omega \sin \omega t $$

アンペアの法則は次のように書き下せます。 $$ \vec{\nabla}\times \vec{H}=-\epsilon_0\left(1-\frac{Ne^2}{m\omega^2\epsilon_0} \right)\omega \vec{E_0}\sin \omega t \\ =-\epsilon_0 \left(1-\frac{\omega_p^2}{\omega^2} \right)\omega \vec{E_0}\sin \omega t $$ ここで $$ \omega_p=2\pi f_p=\sqrt{\frac{Ne^2}{m\epsilon_0}} $$ で、\(f_p\)はプラズマ周波数と呼ばれています。 上記の式からわかるようにプラズマは電波に対して比誘電率が\(\epsilon_r =\left(1-\frac{\omega_p^2}{\omega^2} \right)\)の誘電体のように振る舞います。

真空に対するプラズマの屈折率\(n\)は比透磁率\(\mu_r\simeq 1\)とすると\(n=\sqrt{\epsilon_r \mu_r}= \sqrt{1-\frac{\omega_p^2}{\omega^2}}\)とかけるので、となります。 周波数がプラズマ周波数より大きければ屈折率は実数になり、電波は電離層内を伝搬します。プラズマ周波数以下だと屈折率が虚数になるため全反射します。

正割法則

一方、スネルの法則を考えると入射角\(\theta_0\)、屈折角\(\theta\)とすると\(n=n\sin \theta =\sin \theta_0\)が成り立ちます。 今、地表から垂直に周波数\(f^*\)の電波を発射して、反射したとします。この時\(\theta=90°\)なので\(n=0\)です。 \(f_*\)は反射した高さでのプラズマ周波数となります。 垂直打ち上げで反射する最大周波数を臨界周波数といいます。 臨界周波数は電離層の最大電子密度のところのプラズマ周波数です。 この高さに周波数\(f\)の電波を入射角\(\theta_0\)で入射して全反射したとすると次の式が成り立ちます。 $$ \sin \theta_0 =\sqrt{1-\frac{f_*^2}{f^2}} $$ 変形すると $$ f=\frac{f_*}{\cos \theta_0}=f_*\sec \theta_0 $$ となります。 これを正割法則と言います。

電離層での減衰

電離層では主に2つの減衰があります。

1つは電離層を通過するときの減衰で第1種減衰と言います。 第1種減衰は電子が電離層の電子にエネルギーを与えて電子が振動しても他の粒子との衝突でエネルギーを失ってしまうために起こる減衰です。 この減衰は電子密度にほぼ比例し、周波数の2乗にほぼ反比例します。 電子密度が大きいほど衝突する粒子が多いので減衰が大きくなります。 電波によって振動した電子の振幅は周波数の2乗に反比例します。(プラズマの計算で求めた電子の速度をもう一回時間で積分してみてください) 振動の振幅が大きいということはその分他の粒子に衝突しやすくなります。 このような理由から一般にMF以下の低い周波数は電離層で大きく減衰し、電離層反射を利用できなくなります。

もう1つは反射するときの減衰で第2種減衰といいます。 一般に第2種減衰は電子密度が大きいほど、周波数が高いほど大きくなります。

まとめ

今回は電離層での電波の伝搬について解説しました。 電離層をプラズマとして電波の反射について計算しました。 プラズマは誘電体のような振る舞いをしプラズマ周波数をしきい値に電波が反射します。

参考文献

電磁気学をちゃんと学びたい人向け

上の難易度が高い人

次回予告

次回はアンテナの原理的な話を書きたいと思います。

前回

【資格】無線従事者のための物理学-電磁波の導出-
MathJax.Hub.Config({tex2jax: {inlineMath: , ]}}); 無線従事者をはじめとする技術関係の資格試験でいきなり覚えろと言わんばかりに公式などが出てきて困惑した経験はないでしょうか? 私は理解しないと...

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