今回はアンペア(Ampere、アンペール)の法則とビオ・サバ―ルの法則について扱います。(記事内では無線従事者使われる呼び方に準拠してアンペアの法則、ビオ・サバ―ルの法則と記載する。)アンペアは電流の単位のアンペアの由来となった人物です。
まず、電流間に働く力について軽く触れ、そこからアンペアの法則とビオ・サバ―ルの法則を導きます。無線従事者の参考書では別々に扱われる2つの法則であるが、同じ出発点から導くことにより本質的には両者が同じ法則であることを示します。
電流間に働く力と磁界
アンペアは距離R[m]離れた平行・反平行に流れる2本の電流\(I_1[A],I_2[A]\)間に働く力を実験により測定しました。その結果は
$$
F=k\frac{I_1I_2}{R}
$$
で、平行なときは引力、反平行なときは斥力となりました。
\(k=\frac{\mu_0}{2\pi}[A^2/m]\)です。昔は真空の透磁率は\(\mu_0=4\pi\times 10^7\)でしたが、今は電流の単位の定義が変わったので若干ずれています。
\(F\)が\(I_1\)にかかる力だと考えて、
$$
F=\mu_0I_1H \\
H=\frac{1}{2\pi}\frac{I_2}{R}[A/m]
$$
と書き表します。
\(H\)は電流\(I_2\)が作る\(I_1\)の位置に作る磁界です。
ここで向きをあえて明示しませんでしたが電流にかかる力の方向は磁界の方向から電流方向に右ねじを回す時にねじが進む方向となります(右ねじの法則)。
ここでは電界と同様に定義するためこのような表現をしました。仮にこの世界に単磁極が存在し、電荷に対応する磁荷があれば、その磁荷にかかる力は電荷と同様に扱えるはずです。
また、電界同様、電束密度に対応した磁束密度も定義できます。
透磁率\(\mu\)の常磁性体内では\(\vec{B}=\mu\vec{H}\)の形になります。
電磁気学の世界では電界と磁束密度を用いて計算されることが多いが、無線従事者試験ではなぜかアンペアの法則やビオ・サバールの法則では磁界を使っているので、本記事もそれに準拠する。必要に応じて\(\vec{B}=\mu_0\vec{H}\)と読み替えていただけば幸いです。
アンペアの法則
アンペアの法則は閉曲線を貫く電流の合計と閉曲線に沿って磁界を足し上げた結果とが等しいというものです。
(1)式を変形すると\(2\pi RH(R)=I\)となる。これは半径Rの円周状の閉曲線\(C_0\)上で磁界を足し合わせるとその円に囲まれている電流に等しくなることを示しています。
任意の閉曲線\(C\)に一般化することができ、\(\int_C\vec{H}d\vec{s}=I\)とあらわせます。この時\(I\)は\(C\)に囲まれるすべての電流の和です。
図1のように電流が\(z\)方向に流れている周りにある閉曲線\(C\)を考えます。
\(C\)上の点\(P\)にある微小ベクトル\(d\vec{s}\)電流から垂直に\(P\)方向に\(x\)軸を取り、\(x,y,z\)成分に分解します。すなわち
$$
d\vec{s}=d\vec{s}_x+d\vec{s}_y+d\vec{s}_z
$$
です。
右ねじの法則から磁界は\(y\)方向のみなので
$$
\vec{H}(R)\cdot d\vec{s}=\vec{H}(R)\cdot d\vec{s}_y
$$
となります。電流\(I\)から\(d\vec{s}_y\)を見る角度を\(d\theta\)とすると
$$
\vec{H}(R)\cdot d\vec{s}=\vec{H}(R)\cdot d\vec{s}_y=H(R)ds_y=\frac{I}{2\pi R}Rd\theta=\frac{I}{2\pi}d\theta
$$
\(C\)にわたって積分すると\(C\)は電流の周りを一周する閉曲線なので
$$
\int_C\vec{H}(R)\cdot d\vec{s}=\frac{I}{2\pi}\int ^{2\pi}_0d\theta=I
$$
となります。
以上から一般の閉曲線沿いに磁界を線積分した値が閉曲線を貫く電流と等しいことが示されました。
\(C\)で囲まれる閉曲面を\(S\)とするとストークスの定理から
$$
\int_C\vec{H}(R)\cdot d\vec{s}=\int_S\vec{\nabla} \times \vec{H}\cdot \vec{n}dS
$$
が成り立ちます。
また、電流\(I\)は\(S\)を貫く電流密度\(\vec{i}\)の電流の総和とみなせるので
$$
I=\int_S\vec{i}\cdot \vec{n}dS
$$
となります。
この2式が等しいので
$$
\vec{\nabla} \times \vec{H} =\vec{i}
$$
が成り立ちます。これをアンペアの法則の微分系といいます。
ビオ・サバ―ルの法則
ビオ・サバ―ルの法則は微小電流\(I\Delta s\)が距離rの点に作る磁界が以下のように表せるというものです。この法則から上記のアンペアの法則の出発点が導けます。
この式もローレンツ力を考えると容易に理解できます。
$$\Delta H=\frac{1}{4\pi}\frac{I\Delta s \sin \theta}{r^2}$$
アンペアの法則で考えた直線電流を考えます(図2)。
電流から距離Rの点の磁界を計算します。
図から\(r=\frac{R}{\sin \theta},-z=\frac{R}{\tan \theta},dz=\frac{R}{\sin^2 \theta}d\theta\)となります。
$$\begin{eqnarray}
H&=&\frac{I}{4\pi}\int^{\infty}_{-\infty}\frac{\sin \theta}{r^2}dz \\
&=&\frac{I}{4\pi R}\int^{\pi}_{0}\sin \theta d\theta =\frac{I}{2\pi R} \\
&=&\frac{I}{4\pi}\int^{\pi}_{0}\frac{\sin^3\theta}{R^2}\frac{R}{\sin^2\theta}d\theta \\
&=&\frac{I}{4\pi R}\int^{\pi}_{0}\sin \theta d\theta =\frac{I}{2\pi R}
\end{eqnarray}
$$
上記からビオ・サバ―ルの法則からアンペアの法則が導けます。
まとめ
磁界を導入し、アンペアの法則とビオ・サバ―ルの法則を紹介しました。
間違い・コメント等あれば指摘していただければ幸いです。
参考文献
今回の出題範囲
電磁気学をちゃんと学びたい人向け
上の難易度が高い人
次回予告
ローレンツ力についてメインで扱う予定である。
前回
次回
本シリーズについて
勉強法
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